Chapter.5 新しい「先生」

それが、山根英治(EIJI)との出会いだった。
当時のEIJIはとんがっている。

「日本の美容師さんってさ、カットがヘタだよね」
大きな声で言った。
水島の周囲はみな、その「日本の美容師さん」である。
水島は内心はらはらしながら会話を試みた。
「キミの髪はさ、ここがこうなってるから跳ねるでしょ」
突然、EIJIが言い始めた。
なんで? 触ってもいないのに、なんでこの人わかるの?
水島はそのとき、感じている。
この人、ホントにカットが上手なのかも。
「カットってね、すごくおもしろいんだよ」
EIJIはかまわずしゃべりつづけた。
「今度さ、仙台でデモンストレーションやるから、見においでよ」
「行きます」
即答していた。

南相馬の『ベレッツァ』は、いつも通り営業していた。
久しぶりに顔を出した水島は、佐久間に再び頭を下げる。
「すみません。帰ってきたばかりで申し訳ないんですが……」
仙台でドライカットのセミナーがあるので、行かせてください。
「いいよ」
佐久間は許してくれるのだった。

スタッフが勉強すること。
それは大切なことだと考えていた。
オレが教えることだけでなく、いろんな技術を吸収してほしい。
幅を拡げて、オレにはつかめないお客さんをつかんでほしい。
そんな佐久間の発想は、日本の美容界においては特異だった。
通常は「先生」として君臨し、自分の技術を再現させる。
そんな経営者が多いなか、
佐久間は「先生」になることにこだわらなかった。

ドライカットも、山根英治も知らなかった。
だけど水島が勉強したいと言うなら、きっと何かがある。
それを吸収してきてほしい。

水島は仙台で、EIJIの仕事を見た。
EIJIがカットしたモデルの髪の毛を、動かす。
髪は見たこともない動きをした。
参加者は、その髪に触れる。
指を入れたその瞬間、水島は衝撃を受けた。
なんだ、これ。
このなめらかさ。このやわらかさ。

以来、水島はEIJIが日本にやって来るたびにセミナーに参加するようになる。
さらにはジョン・サハグ。
水島はようやくジョンの予約を取り、ニューヨークへと向かうのであった。

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