Chapter.6 髪の毛、つまんでるぞ

ジョンの仕事は、おそろしく丁寧だった。
一本一本の髪の毛と、対話しているようにカットした。
こんなに真剣に、カットに取り組む人がいるのか。


鏡の前に座った水島は、感動していた。
その日から2年間である。 水島は一度も自分の髪をカットしなかった。
当然、髪はロングになっていく。

しかしその間、スタイルは一度も崩れることはなかった。
あれだけ跳ねて、おさまらなかった髪が
2年もの間、どんなに伸びてもフィットしつづけたのである。

 

帰国して、再びEIJIのセミナーを待つ。
その間、前回のセミナーで撮影した写真やビデオを見ながら
ドライカットにチャレンジする。 切る方法はわかった。
『テーパー』という、指先で毛先をつまみ、点で切る手法。
なんども試した。 EIJIと同じ方法で、やってみた。
だけど、違うのだ。
どうしてもできない。スタイルにならない。点がつながらない。
頭の中は再び「?」だらけになった。


待ちに待ったEIJIのセミナー。
話を聞いて、EIJIのカットを見る。 あ、そうか。そういうことか。
頭のなかの「?」が、どんどん消えていく。
EIJIの話を聞いていると、すべてが解決しそうに思える。
「うわー、すごいすごい。カットってすごいんだ」
少女のようにわくわくしている自分がいた。

ところが、である。
南相馬に帰り、ウイッグを取り出してカットしてみると まったくできないのだ。
なにが違うのか。どこが間違っているのか。
写真を見ても、ビデオを見てもわからない。
同じようにやってるつもりなのに、できあがるスタイルはまったく違う。
その繰り返しだった。
来る日も来る日も、水島はウイッグに向かいつづけた。
休日もお店に出て、ウイッグと格闘した。
その様子を、佐久間は不思議な光景として見ている。
「なにやってんだろう」
それが率直な感想である。
「なんか、髪の毛つまんでるぞ」

佐久間は水島に聞いてみる。
「どう切ってんだ」
水島は説明する。ドライカットとは。点で切ること、とは。
理屈は通っていた。
だけど佐久間は言うのだ。
「でも、かたちになってねぇじゃねぇか」

 

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