Chapter.3 新しい世界との遭遇



その、暴君・佐久間でさえ、
自信のかたまりのような佐久間でさえ、 水島の髪を救うことはできなかった。

水島はまずアルバイトとして働き始め、
美容学校を卒業するとそのまま、佐久間のもとで働き始めた。
その水島の髪を見て、触れて
「伸ばすな」と、佐久間は言った。
「もし伸ばすんだったら、うんと伸ばせ」と。

水島ゆかりは悩んでいた。 自分のカットに。自分の髪に。

佐久間のカットは独特だった。
サスーンの技術に、自分の流儀を加えている。 だから水島には理解できない。
サスーンの教科書はたくさんあった。 それらの本を見ながら水島は練習する。
しかし、佐久間のやり方は教科書とは違うのだ。
だから混乱する。


そこで水島はたびたび東京へ出て、 いろんなアカデミーに通った。
いずれもヴィダル・サスーン直系の有名アカデミーだった。
ただ、いくら学んでも悩みは解消されなかった。
自分の髪もおさまらなかったし、
技術そのものへの疑問も、残りつづけていた。
さらに困ったことに、水島は考えていたのだ。
社長とは、違うやり方を生み出さないといけない。
そうじゃないと、この店で私はお客さんが獲れない。
つまり佐久間もまた、サロンの中ではライバル。
そんな気概が、水島を突き動かしていたのであった。

 

そんなとき、水島はある雑誌の記事と出会った。
ニューヨークにカット料金200ドルの美容師がいる
ジョン・サハグだった。
ニューヨーク・ドライカットの創始者。
山根英治の師匠である。
だが、当時の水島はそこまでは知らない。
ただ、「ドライカット」という言葉が鮮烈に響いた。
しかも毛先を1センチほどつまみ、髪を点でカットしていく、という。
どんな技術なんだろう。 興味が湧いた。

 

さっそく、調べてみた。
日本でドライカットという技術を教える講習はないのか。

あった。

nydc
東京でセミナーをやっていた。
さっそく休みをとって東京へ行き、1回目に参加。
さらにそのセミナー講師のサロンに行って、
店長さんにカットしてもらった。 するとどうだろう。
あの悩み多き髪が、きれいにおさまったのだ。
それはまさしく、水島にとって新しい世界との遭遇だった。

back top next